Source: IFPMA
癌の治療やケアでは、外科手術、放射線療法、化学療法、新しい標的療法、そして緩和ケアのための薬物療法など、幅広い介入が行われます。抗生物質を含む抗菌薬は、これらの介入のほぼすべての治療プロトコールで使用されています。例えば、化学療法後の患者さんに対しては、免疫機能の低下による感染から守るために抗菌薬が投与されます。また、抗菌薬は、多発性骨髄腫や急性白血病などの特定の癌の治療に不可欠です。乳癌、甲状腺癌、精巣癌、膀胱癌など、多くの癌の治療には、手術部位の感染を予防するために抗菌薬を必要とする外科的介入が含まれます。
薬剤耐性(AMR)は、癌治療に悪影響を及ぼし、癌のケアにおける重要な進歩を無にする可能性があります。癌患者は免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなります。また、手術や骨髄移植、放射線療法、化学療法などの治療は、免疫系に大きな負担をかけます。癌の治療を受けている患者さんの5人に1人が感染症で入院しており、抗菌薬がこれらの患者さんの主な防御手段となります。AMRによって、これらの感染症の治療が難しくなってきており、その結果、こうした患者さんの治療転帰が不良となっています。英国の癌専門医100人を対象とした最近の調査では、調査対象となった癌専門医の95%が、すでに将来の癌治療やケアに対する薬剤耐性菌の脅威を大いに懸念していることが明らかになりました。
さらに、各国の事例でも気がかりなデータが明らかになっています。例えば、インドでは血液かん患者の約73%が、最終選択抗菌薬であるカルバペネムに対する耐性菌を保有していました。
癌は世界の死因の第2位であり、約6人に1人が癌で死亡しています。増加の一途をたどるこうした癌の負担は、増大するAMRの脅威と合わせて、世界的な公衆衛生上の問題となっており、喫緊に対処する必要があります。
現在、癌コミュニティでは、AMRが癌転帰に及ぼす影響に関する知識は乏しく、意識も高くありません。そのため、腫瘍専門家、患者支援者、プログラムマネージャー、患者団体、及び癌の分野で働くその他のステークホルダーが、AMRの発現と拡大に寄与する要因や感染管理戦略を理解し、対処することが急務です。
今年のWAAWは、AMRが癌治療に及ぼす影響について意識を高め、関連するすべてのステークホルダーに行動を喚起する良い機会です。
AMRへの対応は、UICCの優先事項の1つです。こうした趣旨のもとに、私たちはAMRと癌医療に関するタスクフォースを設置しました。このタスクフォースは、AMRに関する最新のエビデンスの提示、AMRと癌医療に関する研究や知識を強化する余地のある分野の特定、ベストプラクティスの共有、癌コミュニティ内での連携の促進、及びAMRに関する政策変更の実現の手助けを目的としたものです。
こうした観点から、重要な最初の一歩として、UICCでは癌治療に対するAMRの影響について、ニュース記事やブログの形で情報を発信したり、バーチャルな対話を行ったりしています。これらのリソースは、UICCのメンバー、癌コミュニティ、そしてAMRコミュニティのために開発されたものであり、2020年の世界抗菌薬啓発週間(WAAW)において私たちが重点を置くものとなります。
UICCが取り組んでいる重要な分野の1つは、既存の必須医薬品や診断薬について、品質が保証された医薬品/診断薬のアベイラビリティ、アフォーダビリティ、及び継続的なアクセシビリティを確保することですが、それだけでなく新規の医薬品や診断薬の研究開発も含まれます。医療業界は、政府や市民団体と協力して、これらが確実に実現されるようにしていくべきです。さらに、AMRと闘うための新たな抗菌薬、ワクチン、診断薬などのツールの研究開発には、より堅固な投資と協調的アプローチが必要になります。
おっしゃる通り、癌治療、特に新しい標的療法は大きく進歩しています。残念ながら、抗菌薬について同じことは言えません。これは、業界が抗菌薬に投資するインセンティブが少なくなってきているためです。実際に、多くの大手製薬企業は、投資利益率が好ましくないことから、抗菌薬をポートフォリオから外しています。
さらに、市場に投入された新製品は、いずれもAMRの抑制を目的とした取り組みにより、使用が大幅に規制される可能性が高くなります。
そのため、政府やその他の主要な関係者が協力して、研究開発への資金提供、共同ネットワークの増設、及び特に低中所得国における抗菌薬の持続可能な供給の確保を行う、革新的な方法を模索していくことが急務です。
Cary Adams