出典: IFPMA

「新世代の抗菌薬の創出」ウェビナー – 製薬企業がどのようにして立ち上がったかを説明する機会に

私は先日、英国王立国際問題研究所(Chatham House)のウェビナー「新世代の抗菌薬の創出」に参加しました。これは、今から1年あまり前に、Jim O’ Neill氏がどのようにAMRに対する業界としての行動を加速させるのに貢献したかを語る好機となりました。業界のAMRへの対策は、私が研究開発型製薬企業を世界的に代表する協会の事務局長として、IFPMAが取り組むべきであると考えていたことです。 O’ Neill氏は研究開発型製薬企業に対し、AMRによって生じる可能性のある膨大なコストと、AMRが健康や経済に及ぼす恐るべき影響を回避する取り組みを強化し、その実現に手を貸してもらえるよう呼びかけました。 その訴えは共感を呼び、約1年後のAMRアクションファンドの創設につながりました。同ファンドは今年7月に発足しました。

薬剤耐性菌の急速な拡大に対処するためには、新世代の抗菌薬が必要です。英国政府が2014年に実施した「抗菌剤耐性に関するレビュー(Review on Antimicrobial Resistance)」では、2050年までに年間1,000万人がこうした細菌によって死亡する可能性があり、世界経済への費用は累計で最大100兆米ドルにのぼると推定されています。こうした喫緊の必要性にもかかわらず、製薬企業にとって商業的実現可能性がないことから、開発中の新規抗菌薬は依然としてほとんどなく、英国王立国際問題研究所の2019年報告書では、抗菌薬耐性に対処するための重要な推奨事項の実行が進んでいないことが強調されています。

私は、この難しいジレンマについて業界の視点から語るため、9月22日に開催された英国王立国際問題研究所のウェビナー「新世代の抗菌薬の創出」に参加しました。パネルには、ほかに以下の方々が参加しました:

  • Jim O’Neill、英国王立国際問題研究所理事長
  • Kevin Outterson、英国王立国際問題研究所グローバルヘルスプログラム準研究員、CARB-X業務執行取締役、ボストン大学教授
  • Laura Piddock(Laura Piddock)、グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ(Global Antibiotic Research and Development Partnership)科学部長

私たちは、新規抗菌薬の開発の緊急性と、資金面でのギャップに対処するための最近の取り組みについて議論しました。 COVID-19は未知のパンデミックであり、専門家によって予測されていたものの備えはなされていなかった「疾患X」でした。それに対して、AMRは1945年にAlexander Flemingによって予測されており、専門家らが最も危険な細菌における耐性の増加を毎年追跡しています。私たちは、Jim O’Neill氏の2014年の報告書などから、AMRによる膨大なコストと、AMRが健康や経済に及ぼす恐るべき影響について把握していました。

しかし残念なことに、O’Neill氏が推奨事項を示してから6年が経っても、ほとんど何も実行されていませんでした。

さらに、抗菌薬の領域から撤退する企業が増えたことで、業界は批判の的となっていました。抗菌薬研究に注力する多くのバイオテクノロジー企業が倒産したり、資金調達に苦慮したりしています。これらはすべて、抗菌薬の市場が存在しないことによるものです。多くの場合、研究開発費の損失を切り捨てるより、抗菌薬の市場にとどまる方が多額の費用がかかる結果となっています。

そこで、業界は新規抗菌薬の開発を支援するために最初の一歩を踏み出すことを決め、10億米ドルを拠出しました。

実のところ、AMRアクションファンドについて発表する準備ができた時点で、このニュースがCOVID-19にかき消されてしまうのではないかと危惧していました。ところが、ふたを開けてみると政治家やメディアの反応は良好で、関心を示してくれ、AMRに対して行動を取る必要性を正しく認識してくれました。 AMRや公衆衛生の領域に加え、政治家からも好意的な反応があり、利益はないが公衆衛生上の大きな問題がある部分に、業界が積極的に投資する意思があるのを示したことが、政治家を後押しする結果となりました。

このコミットメントは、ベルリンでのAMRアクションファンド発足時に明らかになりました。2ヵ国の保健大臣がCOVID-19への対応を監督する任務から一時離れて式典に参加し、AMRに対処することの重要性を認識していることを示しました。ドイツのJens Spahn保健大臣は次のように語りました。「国、企業、そして科学が力を結集すれば、変化をもたらすことができるでしょう・・・これは、この新たなファンドとAMRに関するイニシアチブを後押しするものです」。 さらに、大臣はそこにいたすべてのステークホルダーに対し、「ドイツが欧州理事会の議長国を務める間は、薬剤耐性に必要な注意が払われることになるでしょう」と保証しました。

10億米ドルの拠出は、目に見える変化をもたらすだけでなく、大きな転機になる可能性があると考えています。

抗菌薬研究に関する統計を見ると、研究開発資金の約3分の2から80%が民間部門から投資されていますが、たいていは4~5社による投資にとどまりまっています。したがって、抗菌薬事業以外の研究開発型の製薬企業23社から拠出を受けられたことは大きな成果でした。

本ファンドは、より多くのニーズがあり、成功の可能性が高いところに投資するという点で、ほかと違っています。CARB-Xなどの取り組みのおかげで、初期研究や創薬研究には多くの関心が寄せられていますが、その後には「死の谷」が広がっています。そのため、本ファンドでは早期開発段階の臨床開発に重点を置きます。

2つ目の重要な要素は、利益を生み出すことを目的としたものではないということです。本ファンドの戦略は、WHOの優先病原体リストとCDCによる優先度に基づいて立てられます。したがって、明らかに投資利益率ではなく、公衆衛生上の懸念に基づくものとなります。

3つ目の重要な要素は、民間部門のこうした動きは最初の一歩であり、政策変更に関する議論を推進するためには、すべてのステークホルダーからの支援が必要であるということです。

抗菌薬研究が魅力のある、しかし同時に持続可能で実行可能なものになるよう政策改革を推進することができなければ、これは大海の一滴で終わってしまいます。 

AMRアクションファンドは、確実に資金が適切に投資されるようにし、科学と公衆衛生を主な考慮事項としていきます。

インタビューの全容はこちらをご覧ください

Thomas Cueni