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不振の抗菌薬パイプラインを刺激する新ファンド

作成者: Admin|Jul 30, 2020 12:18:00 PM

出典: The Lancet

不振の抗菌薬パイプラインを刺激する新ファンド

抗菌薬の開発を支援する抗菌薬アクションファンドの発足は、新規抗菌薬の開発に新たな希望と資金を投じます。同ファンドについてBecky McCallがリポートします。
2020年7月9日に発足した新たな10億米ドルの薬剤耐性(AMR)アクションファンドは、日常的な診療の基礎をなす新規抗生剤のパイプラインが縮小し続ける中、それに歯止めをかけるために切望されている救済策となることが期待されています。現在、グラクソ・スミスクラインやファイザーといった業界最大手の企業を含む23社の製薬企業が、先日発足した同ファンドへの拠出を約束しています。この共同ファンドは、2030年までに2~4剤の新規抗菌薬を患者さんに届けることを目指して研究開発(R&D)を支援するとともに、抗菌薬への持続的な投資を可能にする市場環境を創出することを目標としています。

F2G社の最高医学責任者であるJohn Rex氏は、30年以上にわたりAMR政策の分野に携わってきた経験から、同ファンドを心より歓迎しています。「AMRアクションファンドの発表は素晴らしいニュースでした。正直なところ、嬉し涙を浮かべてしまいました」と同氏は語り、さらに、医療には多様な抗菌薬の確実な供給が必要であると述べました。

同氏は、AMRの現実を現場につきつける例として、知り合いの医師の患者さんの話に言及し、悪性腫瘍を制御できていたにもかかわらず、薬剤耐性感染症にかかり、それを治療できる薬剤が見つからなかったために亡くなったと語りました。「この医師は非常に経験豊富な医師であり、そんな彼女が適切な抗菌薬を見つけられなかったのであれば、そのような抗菌薬はなかったということです」と同氏は言います。「極めて多くの医療が、必要な時に適切な抗菌薬が利用できるかどうかにかかっています」。

優れた臨床判断と抗菌薬の適正使用は重要ですが、政府や業界からの革新的な対策も重要になります。国際製薬団体連合会(International Federation of Pharmaceutical Manufacturers & Associations)のThomas Cueni事務局長は、次のように指摘しています。「抗菌薬分野の現状を変えたいのなら、業界は力を合わせて立ち上がり、共同でそれなりの額の資金を拠出する必要があります」。

新たなクラスの抗菌薬の創製には何十年もかかる可能性があり、近年、採算が取れず持続できないという理由で多くの企業がこの分野から撤退したことで、この分野で研究パイプラインの運営を続けているのはごく少数の企業のみとなっています。それが今回、リスクを複数の企業が分担するこの新たなファンドを通じて、多くの企業が戻ってきています。「これまで、小規模な新興企業の先にあるのは暗いトンネルばかりで、その先には光が見えませんでした。私たちは、今回の取り組みによって確実性が高まり、新たな企業や製品の参入につながることを願っています」とCueni氏は強調しました。

早期開発段階にある多くの分子は、初期の開発相を終えた時点で、費用のかさむ臨床試験(研究開発費の約80%を占める)に対する期待収益がリスクに見合うものではないと判断され、脱落します。CARB-Xは、ボストンを拠点とする世界的な非営利パートナーシップであり、抗菌薬の早期研究段階の復興に取り組む数少ない組織の1つとして、60以上の抗菌薬開発プロジェクトを支援しています。しかし、臨床開発の段階に達した時点で、ほかの資金源が必要になります。そこに介入するのがAMRアクションファンドです。

ウェルカム・トラストは、WHO、欧州投資銀行とともに、この新たなファンドを支援しています。ウェルカム・トラストのJeremy Farrar代表は、次のように述べています。「[・・・]破綻した抗菌薬市場を是正する長期的な対策は依然として実現が困難であり、重要なイノベーションを推進する企業の存続自体を脅かしています。・・・このファンドは、現在、後期開発費用を支援する投資家を見つけるのに苦戦しているイノベーター企業に対して、喫緊に必要なライフラインを提供するものとなるでしょう」。

しかし、医療提供者による抗菌薬の調達と償還に関する改革も依然として必要です。英国では現在、有効な抗菌薬について、販売量に基づいて製薬企業へ償還するのではなく、抗菌薬へのアクセスに対してNHSが製薬企業に前払いするよう定めた新たなモデルが試行されています。また、スウェーデンでも、治療が困難な感染症の患者さんに有効な抗菌薬がないという状態にスウェーデンの医療システムが陥ることがないようにすることを目標とした新たな償還モデルが試行されており、供給製薬企業に対する最低年間収益を国が保証しています。

英国のAMR特使Dame Sally Davies教授は、この新たなファンドを歓迎し、次のようにコメントしています。「英国は、生命を脅かす疾患の一歩先を行く新しい抗菌薬を生み出すことを企業に奨励することにより、率先して取り組みを行っています」。さらに、「新しいサブスクリプション型の抗菌薬に対する支払いモデルにより、早ければ2022年には患者さんが新規抗菌薬治療による恩恵を受けられるようになる可能性があります」と同教授は述べています。

ブリストル大学の細菌学者Matthew Avison氏は、今回のCOVID-19の世界的流行により、治療が不可能な感染症の力が浮き彫りになったと述べ、現在はCOVID-19に注目が集まっているが、「じわじわと迫りつつあるAMRのパンデミックを抑えるには、AMR研究にもっと資金を供給する必要があります」と指摘しています。

「薬剤耐性により、以前は治療できていた感染症が治療不能になり、今年は約70万人が死亡すると予測されています」。さらにAvison氏は、重要な点として、COVID-19とは異なり、「薬剤耐性感染症に対しては、集団免疫が得られることも、ユニバーサルワクチンができることもありません。こうした対策を取らなければ、抗菌薬耐性の影響は今後の10年間でCOVID-19の影響を上回ることになるでしょう」と述べています。