出典: European Biotechnology

AMRへの対応における投資家の役割

AMRが投資家の盲点となっているのはなぜか、その状況を変えるにはどのような取り組みを行う必要があるかについて、Aviva InvestorsのAbigail Herron氏が論じます。Abigail Herron氏は、Aviva Investors責任投資部門のグローバル責任者であり、英国政府によって開始されたイニシアチブである「AMRに対する投資家の取り組み(Investor Action on AMR)」に参加しています。このイニシアチブは、第4回AMR会議の専用資金提供に関するセッション(8月27日15時15分~16時15分)で発表されました。

Aviva Investorsは、数年前からAMRの公衆衛生上の影響と経済的な影響に関心を寄せてきました。私たちは、2016年に英国政府の抗菌薬耐性レビューチームと薬剤耐性について協議する初の投資家会議を開催し、座長を務めました。会議では、投資アナリストや資金管理者が立ち見する中、Jim O’Neill卿が基調講演を行いました。また、世界抗菌薬啓発週間には、「スーパー耐性菌とスーパーリスク:投資家向けガイド」を発表しました。当社では、製薬、食品小売、及び生産部門の企業を主とする投資先の企業と個別に面談し、抗菌薬耐性に関する戦略について協議しています。

2017年、当社はウェルカム・トラストの招きで、当時英国の最高医学責任者であったDame Sally Davies氏、国連財団、及び英国政府によって開催された「抗菌剤耐性に対して行動を喚起する会議(Call to Action Conference on Antimicrobial Resistance)」で、保険者/投資家として唯一講演を行いました。

また、2017年に当社が開催した2つの重要顧客会議でも、このテーマを中心的に取り上げました。2018年のEATフォーラムでは、Aviva社の最高経営責任者が持続可能な農業に関する基調講演を行い、AMRを投資家の盲点としたレポートを発表しました。

AMRが投資家の盲点となっているのはなぜか?

大規模投資家は、環境、社会、及びガバナンスに関する比較的確立されたテーマ(気候変動、管理職の報酬、現代奴隷など)に比べ、AMRの問題や影響についてはあまりよく認識していません。

この認識不足の元となっている重要な点は、市場の失敗の存在です。経済学者は、「市場の失敗」という用語を、需要と供給が商品やサービスの効率的又は効果的な分配につながっていない状況を説明する用語として使用しています。AMRの場合、市場の失敗とは、a)外部性と、b)公共財に金銭を支払うことに対する消極性を指します。

外部性とは、第三者が自身に発言権のない決定によって利益や不利益を受けることです。例えば、工場が川を汚染した場合、その工場は費用を節約できるかもしれませんが、その川を利用する川下の人々が被害を受けることになります。抗菌薬の消費についても同様なことが言え、患者さんは抗菌薬を服用することで利益を得られる可能性がありますが、抗菌薬の服用によって生じる耐性が社会全体に影響を及ぼします。

現在のところ、抗菌薬の消費によって生じる負の外部性はそれほど厳しく規制されておらず、ヒトや動物における過剰使用につながっています。さらに、抗菌薬が多くの場合安価であるという事実が、それに拍車をかけています。

公共財とは、その生産費用を直接負担しない人々に幅広く利益をもたらすものを言います。例えば、灯台は夜に航行する船舶にとって有益ですが、船主はその運営費を直接は負担していません。同様に、医療業界の大半は、抗菌薬を販売するために、抗菌薬が感染症を抑制する能力をあてにしています。

AMRに対する投資家の取り組みの現状

2019年、私はAviva Investorsの支援を受け、a)投資家は行動を起こすことに関心を持っているか、b)問題の解決を助けるために投資家ができることは何か、という本稿の2つの重要なポイントをテーマに、ケンブリッジ大学で修士号を取りました。

欧州全土の投資家にインタビューした結果、以下の点が重要であると結論付けられました:

抗菌薬の経済に内在する市場の失敗により、企業も投資家もAMRの研究開発に投資することに関して説得力のある事業事例を持ち合わせていない。

AMRは、公共政策介入を必要とする、市場の失敗例です。したがって、この問題を是正する主たる権限は政府にあります。投資家の注意と行動を促すためには、Jim O’Neill氏による英国政府のAMRレビューのマクロ経済的な見通しと、投資先企業及び部門別の影響とのギャップを埋めるレポートを作成する必要があります。そうしたレポートは、出発点として投資家が問題に注意を向けるきっかけとなるものを示す文献を参照したり、ファージ療法などのソリューションに伴う機会を含めることができます。

基本的にこのレポートは、O’Neill氏のレビューを翻訳し、以下によって投資家の関心を引く形にしたものとなります:

  • 投資パフォーマンスとポートフォリオリスクへの影響を探索する。
  • 重要性を具体的に示す(例えば、動物用医薬品部門における重要性など)。
  • 重大な利益と不利益を被る企業のケーススタディをハイライトする。
  • 投資家の注目トピックであるオンコロジー領域が、有効な抗菌薬に依存していることを示す。
  • 考えられる影響や時間枠を含め、国際的に制定されつつある規制について詳述する。

最近発表されたAMRアクションファンドについては、大いに歓迎しています。しかし、同ファンドによる新規抗菌薬の製品化資金の提供に対して大規模な機関投資家に関心を持ってもらうためには、どのような仕組みが必要かを検討する必要があります。AMRについて認識してもらうことが、その道のりに向けた第一歩となります。

投資家がAMRを理解し、行動を起こすようにするために開発されたツール

AMRベンチマーク

100以上の機関投資家を含むさまざまなステークホルダーと共に、医薬品へのアクセスに関するさまざまなテーマに取り組む独立非営利団体であるAccess to Medicine Foundatioでは、2年ごとにAMRベンチマーク(AMR Benchmark)を発表しています。最近では2020年1月に発表されたAMRベンチマークは、抗菌薬市場における最重要プレイヤーである30社について、増加する耐性や、抗菌薬への適切なアクセスに対する世界的ニーズにどのように取り組んでいるかを評価した、初のレポートとなっています。同レポートは、AMRの抑制に対する企業の可能性と責任が最も大きい分野(研究開発、製造廃棄物の管理、適切なアクセスと適正使用の確保など)に焦点を当てています。

2020年のレポートでは、AMRに対する企業の取り組み方に改善の兆しが認められました。特にジェネリック医薬品メーカーに関する情報開示が増えたことで、より多くの企業が医療従事者への過剰販売リスクを減らすポリシーを実行し、責任ある医薬品の販売促進が行われるようにする措置を講じていることが明らかになりました。さらに、企業は自社の医薬品に関する薬剤耐性の拡大と有効性に関する監視プログラムのデータや結果も共有しています。しかし、企業は、新規抗菌薬の登録や臨床的に有用な旧来の抗菌薬の供給を幅広い地域で行っていないため、ニーズが最も高い場所での抗菌薬へのアクセスについては進展が見られません。

このベンチマークの目的は、効果が得られなくなった薬剤に代わる新薬を製薬会社が開発することを奨励し、そうした新薬を必要とする人々が新薬を利用、入手できるよう確保し、すべての抗菌薬について責任ある生産と販売促進が行われるようにすることです。投資家は、この進歩を推進し、奨励する上で重要な役割を果たします。AMRを加速させる主要原因の1つは、抗菌薬の不適切な使用であり、企業は販売量と賞与を切り離すことによって、スタッフがこれらの薬剤を過剰販売するインセンティブをなくすべきであることが示されています。現在市場に出回っている抗菌薬の適切なアクセスと適正使用を確保することに加え、抗菌薬排出量、監査結果、及び供給業者の説明責任の公表を通じた責任ある製造工程のモニタリングは、いずれも今後10年間における優先事項となります

「AMRに対する投資家の取り組み」イニシアチブ

官民の連携により、AMRの問題に取り組むための行動を起こすよう投資家に喚起するイニシアチブが立ち上げられました。この「AMRに対する投資家の取り組み」イニシアチブは、国連が支持する責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)、FAIRR、医薬品アクセス財団、及び英国保健省(Department of Health and Social Care)の支持を受けています。

現在のCOVID-19の世界的流行は、ヒトの健康リスクが世界中の経済や社会に重大な影響を与えることを明らかにしただけでなく、既存の抗菌薬で感染症を治療する力を確保することを含め、予防医療に投資することの重要性を示しました。私たちは、社会、経済、そして投資ポートフォリオの長期的価値を守るために、包括的な多部門間の「ワンヘルス」アプローチを用いて、AMRのリスク、機会、及び影響を正式に評価し、総合的に考えることを投資家に奨励しています。

イニシアチブの主な目的は、変化をもたらすために投資家の影響力を活用することです。金融部門は投資チェーンの一番上に位置しており、WHOの抗菌薬耐性に関する世界行動計画などの国際基準やガイドラインに沿った行動であれば、前向きに行動を変化させる可能性があります。今後、投資家は「AMRの眼鏡」を通して、リスク、機会、及び影響を評価し、総合的に考えること、つまり決定を下す際や投資先を探す際に抗菌薬耐性について考慮することが奨励されます。